日本縦断・こころ旅

　テレビ番組の中でも、旅番組(歴史・街並み・グルメ等)は結構多いですね。民放だと圧倒的にグルメ系、タレントがゲストとともにお気に入りの店を紹介して、料理を楽しむ、という番組です（紹介されるお店も宣伝効果を考えて取材にも協力的です）。

　一方、公共放送のＮＨＫの場合なら、ＢＳでは大自然や海外の歴史的街並みを巡る旅、地上波では、「ブラタモリ」や「鶴瓶の家族に乾杯」といったゴールデンタイムに、ほぼ１時間程度のボリュームで放送しています。毎回、全国の町を歩いて、出会った人たちと交流する、というのがコンセプトです（「ブラタモリ」は地理や地層・地質に関心を示すタモリがメインの番組ですが、それでもユニークな地元の学者や、観光ガイドのキャラクターなどがベースにあり、それに乗っかってタモリが様々に反応する、つまり「人」を抜きにはありえません）。

 

　このゴールデンタイムの２つの番組に似ているようで似ていないのが、ＮＨＫＢＳプレミアムで放送している「日本縦断・こころ旅」という番組です。俳優の火野正平が、視聴者から寄せられた手紙に書かれた「こころの風景」を訪ねながら日本列島を自転車で縦断する旅番組です。不定期な放送であり、番組が始まると、その週は同じ県の「こころの風景」を毎日毎日順を追って訪れていきます。自転車旅なので、当然、行く先々には地元の人々との交流も描かれますが、私が見ている限り、あくまでも番組のコンセプトは「こころの風景」なので、地元の人が火野正平に近づいてきて「いつも見ていますよ」とか、地元の名産品やグルメを紹介する場面も出てきますが、「鶴瓶」や「タモリ」と違って、火野はクールにスルーしていきます。時に冷たい対応もあり、もうちょっとサービス精神出せばいいのに、と思うことがあります。けれども、あくまでも投稿した視聴者の手紙に書かれた「風景」を描写することが目的なのです(たぶん)。しかも投稿した人は番組には出演しないし、また投稿した人の年老いた親族が、その風景近くに現在も住んでいることが書かれていようと、その人は登場しません。描かれるのは「風景」です。そして番組の初めに、これから訪れる先のこころの風景の手紙を読み、そこに到着した時にも再び手紙が読まれます。わずか１５分程度の番組内で、２度も手紙を読むのです。

 

　この番組には、先に紹介した「ブラタモリ」「鶴瓶の」のように、「人」は極力登場してきません、しかし、書かれた手紙の中に「人（人のこころ）」は登場してきます。しかも、その書いた人だけに存在する、その人の悲喜こもごもなこころの風景・感情なのです。私はそこに感動するのです。

この番組制作に当たっては、多くのスタッフや編集者が介在しているので、多少の演出もあるとは思いますが、人が出てこない分、リアルな人が描かれている番組なんだと思っています。番組がスタートして１１年目となっているようで、火野さんも、御年７０歳、自転車こぐのも大変ですが、体力続く限り旅を続けてほしいと思います。

 

　上の写真は、亀岡市保津町にある保津小橋で、２年前、私の高校時代の同級生（女性）が「こころの風景」の手紙を書き紹介され、火野さんが訪れました。放送後に彼女から聞いた話では、番組スタッフからは何度も何度も内容に関しての打ち合わせの電話があったということです。さすがＮＨＫですね。

 

 

 

 

＜ 追記＞

　このブログを書いて数か月後、その「こころ旅」に投稿した同級生が最近このブログを読んでくれました。彼女は私の番組分析力はほめてくれましたが、最後のところ「番組スタッフからは何度も何度も内容に関しての打ち合わせの電話があった」と書いてますが、実は打ち合わせなどはほとんどなかったということなのです。次のように書かれていました。

 

【　わたしの手紙の時の打ち合わせというものはほとんどなく、採用されたことも分からなかったのです。３度くらい連絡がありましたが、

①ご応募ありがとうごさいました。採用されるかわかりませんが。

②地震、大丈夫でしたか？

③撮影終わりました

えー❗採用されたんや。もう撮影終わったんや❗　そんな感じで打ち合わせみたいなのはなにもなしです。】

 

私が勝手に打ち合わせを何度もしている、と思い込んでいたのです、ので訂正いたします。

そして打ち合わせ無しで、火野正平さんとスタッフが、わざわざその場所を探し出し、それなりの物語として放送できるコンテンツを作り上げた・・・・それはそれですごいことだと思った次第。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2020.7.23.記